税理士川端雅彦コラム

KAWABATA MASAHIKO COLUMN

改正税法を使って資産を移転する方法

2015年(平成27年)以降相続税の基礎控除が引き下げられたことにより、相続税を課せられた人の割合が増加しています。

例えば、2021年(令和3年)の死亡者数は1,439,856人、そのうちの9.3%にあたる134,275人が相続税の課税対象者となりました。2014年(平成26年)の課税対象者は4.4%であり、割合にして2倍以上の数となっています。

また、法定相続分に応ずる相続税率は6億円超の場合、最高税率は55%となっており、リスクを取って苦労して稼ぎ出した財産を税金により身ぐるみ剝がされるという、大変酷な税金となっています。

このような中、相続発生前3年間の贈与(暦年贈与)については、相続財産に加算しなおすという制度が、7年前にまでさかのぼるという改正が行われ、令和6年度から、その取扱いが実行されています。

「駆け込みの贈与は許しませんよ」という税務当局の思惑が見え隠れしますが、こういったことに対して、なんらかの対応をしていく必要があります。

一方で、累積2500万円まで贈与税はかからないが、相続時にその贈与分を加算しなおして相続税を計算するという「相続時精算課税制度」にも改正が行われました。

今までは、この制度を使うと、それ以降の贈与については、基礎控除の110万円を引き算できないこととなっていましたが、今回の改正により年間110万円を基礎控除として引き算できるように改正されました。

同時に、この相続時精算課税制度を使った贈与については、110万円までの金額については相続財産に加算しなくていいという改正が行われました。

改正相続時精算課税制度(2024年~)

改正前

改正後

基礎控除

0円

年間110万円

贈与税計算

(贈与額-2,500万円)× 20%

{(贈与額-110万円)-2,500万円}× 20%

相続税の課税価格に加算する財産の価額

贈与額すべて

贈与額から年間110万円までを控除した残額


付け加えると、この制度適用後の贈与については、年間110万円以下の場合には申告不要とされ、非常に使い勝手のいい制度に改正されました。

この一連の改正を見ると、相続時精算課税制度の利用を開始して、その後、毎年110万円の贈与を実行するというのが有利な選択のように考えられます。

しかし一旦この制度を利用すると、暦年贈与の制度を利用することができなくなるので慎重に判断することが必要となります。

例えば、平均寿命81歳まで生きると想定される68歳の男性が毎年300万円×13年間暦年贈与をしたとすると以下のようになります。

贈与額    ①300万円×13年=3900万円

贈与税額   ② 19万円×13年=247万円

生前贈与加算 ③300万円×7年=2100万円

次のこの男性が66歳の時点で相続時精算課税制度を選択し、同様に毎年300万円贈与したとします。

贈与額    ④300万円×13年=3900万円

贈与税額   ⑤(300-110)×20%×13年=494万円

相続時精算課税による加算 ⑥190万円×13年=2470万円

多少の税額等の誤差はここでは考慮しませんが、上記贈与税②及び⑤は相続税から引き算されるので税額への影響はないものとなります。ところが、相続時において加算される金額が⑥の方が③に比べて370万円多くなり、このケースですと相続時精算課税制度を選択すると不利になる可能性があります。

このようなことから、平均寿命①から、暦年の生前贈与加算の期間である7年を引いた年齢②に達した時に、この制度を適用し、その後は、相続時精算課税制度における相続財産に加算しなくていい年間110万円の贈与を繰り返すというのが、最も効果的な選択となります。(①男性81歳、女性87歳②男性74歳、女性80歳)

もちろん、平均余命は人によって異なりますので、その方の健康状態に応じて判断することになることはご理解ください。

それから、もう一点。父からこの相続時精算課税制度を利用して110万円の非課税の贈与を受ける子供は、同時に母から暦年贈与による110万円の非課税枠を受けることができ、合わせ技で220万円まで非課税で贈与を受けることができるので、こういった活用も考慮すべきだと思います。

ミクロの話から突然マクロの話になって恐縮ですが、高齢化が進む日本では、金融資産の多くが高齢者に保有される「金融資産の高齢化」が進んでおり、60歳以上の世帯が保有する金融資産は、家計金融資産全体(2021年度2000兆円)の6割を超えます。

この高齢者が保有する金融資産が、子育てや住宅関連などの支出の多い現役層へスムーズに移転することができれば、消費を活性化する一助になるはずです。

「美田を子孫に残さず」とのバランスを保ちながら、このような税制をフル活用して現役層へ資産を移転する方法を模索することは、日本経済の活性化にもつながると思うのです。

令和6年2月3日

アイネックス税理士法人

代表 川端雅彦

京都・大阪の税理士ならアイネックス税理士法人

2024/02/09

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