アイネックススタッフ日誌

I-NEX STAFF DIARY

ーその収入、追加課税の対象かも? 「1億円の壁」とミニマムタックスを解説―

ーその収入、追加課税の対象かも? 「1億円の壁」とミニマムタックスを解説―


「株式を売却して大きな利益がでた」

「不動産を売却して大きな利益がでた」

「高額な退職金を受け取った」

「高額な配当金を受け取った」

こういったケースに該当する場合、従来とは全く異なる方法で所得税が計算され、納税額が大幅に増加する場合があることをご存じでしょうか。

概要として、一定額以上の所得者については、金融所得等に対する低い税率による税負担の偏りを是正するため、「特定の基準所得金額の課税の特例(いわゆるミニマムタックス)」の適用を受け、所得税の追加課税が発生することとなります。

特に、お伝えしたい注意点として、株式や不動産の売却等のような大きな取引があった年は、ご自身が気づかないうちに、自動的にこのミニマムタックスによる追加課税に巻き込まれてしまう可能性があるということです。

さらに、令和8年度税制大綱によれば、同制度による課税強化の方針が示されており、令和9年以後は、適用対象者及び追加課税額(※)が大幅に増加することが予想されます。


(※)重要なことなので、先行して追加納税額のイメージを共有させていただきます。(詳しい計算イメージは後述)

例)15億円の株式の売却益が発生した場合

⑴令和8年の追加納税額が3,825万円

⑵令和9年の追加納税額は1億7,550万円

→つまり、令和8年12月31日23時59分59秒を超えるかどうかで、同じ取引でも税額が1億3,725万円変わることになります。


以下、私なりに制度の概要等をまとめさせていただきました。よろしければご覧下さい。


【なぜ「1億円の壁」が問題となるのか】

「1億円の壁」とは、所得が一定水準を超えると所得税の実効税率が低下する現象を指します。

その主な要因として、株式等の譲渡益や配当などの金融所得等が通常の給与所得等とは異なる課税方式となっている点が挙げられます。

給与所得等は収入に応じて税率が増加していく一方、株式等の譲渡益や配当所得等には収入にかかわらず約15%の一定の税率が適用されます。

その結果、金融所得等の割合が高い所得者ほど、所得全体に対する税負担率が相対的に低くなるケースが生じます。

こうした課税上の不均衡を是正するために設けられた制度が、租税特別措置法第41条の19「特定の基準所得金額の課税の特例」です。


【制度の概要】

本制度は、一定以上の高所得者について、通常の所得税額が一定水準を下回る場合に追加で所得税を課す仕組みです。

対象となるのは、「基準所得金額」が3億3,000万円を超える居住者です。


【基準所得金額の考え方】

基準所得金額の特徴は、確定申告書に記載された所得金額のみならず、従来であれば確定申告を要しなかった金融所得等を含めて判定される点にあります。

そのため、申告方法にかかわらず判定対象となる点に注意が必要です。

具体的には、以下の所得等が挙げられます。

・上場株式等の譲渡所得

・上場株式等の配当所得等

・申告不要を選択した配当所得等


【計算イメージ】

以下のケースを考えます。

⑴令和8年分所得税

・上場株式の譲渡益:15億円 (申告不要を選択)

・基準所得金額:15億円

この場合、3.3億円を超える部分は11,7億円となります。

この11.7億円を基に計算した金額と通常の所得税額(基準所得税額)を比較し、不足があれば追加課税が生じます。


①特例による所得税額

・(15億円−3.3億円)×22.5% = 2億6,325万円

②通常の所得税額

・15億円×15% = 2億2,500万円

③加算される税額

・上記①から②を控除した金額 = 3,825万円 (追加納税額)

なお、先述の通り、制度見直しにより、令和9年以後については税負担が増加することとなります。


⑵令和9年分以後の所得税(改正後のイメージ)

・控除額:3.3億円 → 1.65億円

・税率:22.5% → 30%

同条件で試算すると以下のとおりです。


①特例による所得税額

・(15億円−1.65億円)×30% = 4億50万円

②通常の所得税額

・15億円×15% = 2億2,500万円

③加算される税額

・上記①から②を控除した金額 = 1億7,550万円 (追加納税額)


【実務上の留意点】

⑴申告方法の選択への影響

上場株式等の配当等や上場株式等の譲渡等について

申告不要制度を選択している場合であっても本制度の判定対象に含まれます。

そのため、本制度の適用を受ける場合、源泉徴収のみで課税関係が完結しないため注意が必要です。


⑵その他の所得への影響

本制度は金融所得等の取扱いに注目が集まっておりますが、実際には、他の所得区分にも影響が及びます。

具体的には、不動産の売却、退職金の受け取り、山林の売却、印税収入等の変動所得など

税負担を考慮し、納税者に有利な課税方法が定められている所得についても所得水準の判定対象となるため注意が必要です。


⑶ふるさと納税等への影響

本制度の適用を受ける場合、基準所得金額の計算については

ふるさと納税をはじめとした各種所得控除の規定による所得控除が反映されません。

そのため、本制度の追加納税額部分に係る所得税については、所得控除の効果が発揮されないこととなります。


⑷暗号資産の課税方法の見直し

現在、暗号資産取引による利益は雑所得として総合課税の対象とされていますが

税制改正の方針として、申告分離課税への移行が示されています。

これにより、上場株式等と同様に一定の税率による課税や損益通算・繰越控除の導入など

金融商品等としての位置付けを前提とした制度設計が検討されています。

その結果、暗号資産取引による所得も本制度の適用を受ける可能性が高く

所得水準の判定や追加課税額に影響を及ぼすことが想定されます。


【まとめ】

「特定の基準所得金額の課税の特例」は、いわゆる「1億円の壁」への対応として導入された制度です。

高額な金融所得等を有する所得者や臨時的に高額の収入を得た所得者に対して追加的な税負担を求める仕組みとなります。

特に、本制度の影響を受けるケースとして、M&Aや事業承継に関連し高額な資産の売却を行う場合が挙げられますが

その売却時期が令和8年となるか令和9年となるかの違いで納税額が大幅に増加する可能性がございます。

そのため、要点を事前に整理し、早期に計画的な対策を講じることが重要となります。

少しでもご不安な点がある場合は、どうぞお気軽に当法人までご相談ください。


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2026/06/04

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